武蔵野市住民投票条例案が否決 ~多様性を活かし開かれた社会へ、より良い条例の制定を!~

 武蔵野市での住民投票条例の議案の本会議での議決は12月21日に行われたが、残念ながら否決された。私は、11月の松下市長の記者会見の時から、一貫して賛成の立場を明らかにして、宣伝広報を行ってきた。
 ここでは条例案への取り組み・私自身の見解を報告したい。
<25人の議員の採決結果>
賛成11名
・立憲民主ネット:5名
・共産党:2名
・自治と共生:2名
・会派に属さない議員:2名(桜井議員と私)
反対14名
・自由民主市民クラブ:7名*議長は議決に参加していない
・公明党:3名
・ワクワクはたらく:2名
・会派に属さない議員:2名(下田議員・品川議員)
<住民投票制度の内容>
 住民投票は、選挙と異なり、市政に関する重要事項について住民が意思表示をする仕組みである。この住民投票条例案の最大の争点となったのは
①投票資格者は、武蔵野市に3か月以上住む18歳以上の市民で、国籍によらない
だったが、これは、反対を主張する勢力が争点としたことであり、いわば入り口論の議論だった。ほかにも
投票資格者の4分の1以上の署名を2か月以内に集めて請求すれば、議会の議決なしで投票できる。
(「常設型住民投票」という)
③成立は、投票資格者の2分の1以上である。
④結果は、市長・市議会議員によって尊重される。投票結果は成立不成立にかかわらず公表される。
<住民投票制度の現状>
 2021年2月発行の行政の骨子案資料によれば、全国の自治体のうち、常設型住民投票条例を定めているのは78自治体であり、そのうち投票資格者に外国籍市民を含めているのは43自治体となっている。武蔵野市のように、日本国籍と外国籍を同じ条件で住民投票資格を認めているのは、全国で2市であり、神奈川県逗子市(2006年~)と大阪府豊中市(2009年~)である。
 これをどのように見るかはさまざまな見解があると思うが、住民投票制度は、まだ広がってるとは言えないと私は感じている。だからこそ、武蔵野市で資格要件が国籍によらず平等とする先進的な条例制定は大きな意味があると思う。
<評価できる点と課題>
評価できる点
①議会での議決を必要としない常設型の住民投票である
議会と市民が異なる方向を向いた場合にも住民投票が可能となる)
②国籍によらない資格は、差別や排除をよしとしない、多様性を活かす開かれたまちづくり・市民自治に貢献する、3か月が短いのではないかという意見もあるが、どこかで線を引く必要があり、日本国籍が3か月なら国籍によって区別がないことが重要である。
課題と感じる点
住民投票結果の実施に関しては、資格がある人の署名を全体の4分の1(人数では約32000人:2021年2月発行市の骨子案による)以上集め、住民投票を実施してその過半数を獲得し、その内容を議会が議決をして実行するという段取りになり、かなりハードルがある。
私は、行政が検討していた段階で、署名は4分の1以上でなく10分の1以上にしたらどうかと書面で提出した。これは3万人以上の署名を集めるのは大変で、実施がより困難になると考えたからである。しかし、市民の一定数以上の賛同を得ているというハードルも必要なので、広島県広島市や千葉県野田市など、全国の住民投票条例の発議要件の中にいくつかはある10分の1としたものである。
<市外からの反対の声は大きかったが、
 武蔵野市民からの意見表明も多かった>
 11月初めまでの予想と最も異なっていたのは、市民から「聞いていなかった」「よくわからない」「外国籍の住民が日本人と同じ3か月で住民投票ができるのは、違うのでは」「私は30年以上住んでいる」「住民投票に賛成だけど、永住外国人にしないのか」などの意見が多数寄せられたことだった。
 11月中旬の産経新聞での報道をかわきりに、駅頭でので宣伝・反対陳情の提出・市役所北玄関付近や、緑町での大音量での街宣車の宣伝など、ヘイトスピーチまがいの宣伝が市民に威圧感を与えるような手法で繰り返された。
 自民党の長島昭久議員や反対を表明する市議会議員も毎週のように駅頭で演説会を行い、その場には、有名な国会議員も駆けつけるなど、反対の宣伝はいわゆる市外の右翼勢力にとどまらず、市内の住民に広がっていたと感じられた。こうした反対の声に心が動いたり、署名をした市民も少なくなかったようである。
 賛成の市民が、武蔵野市のどれだけかはわからないが、少なくとも私のところには、反対の意見の方が圧倒的に多く、市内からもかなりの数にのぼっていた。こうしたことは、来年4月に改選を迎える市議会議員それぞれに影響を与えたと考えられる。
<外国籍住民の現状>
 外国籍の住民は、11月1日現在で、武蔵野市の人口14万8,142人のうち、約2%の3,098人である。身近なところでも、コンビニのレジや飲食店のサービス、介護、工事、解体の現場で働いている。また、私は大人食堂でボランティアを行う中で、外国籍住民の困難は新型コロナ災害の下でさらに深刻化しており、働く場所や生活資金は細り、歯科治療やがん検診も難しくなっていることを伺った。
<私の取り組み>
 私は11月21日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」のインタビューをはじめ、憲法市民フォーラムなどできる限り市民団体の宣伝に参加した。個人的にも街頭で賛成を訴え、12月初めにはチラシを作成して新聞折込も行った。
<条例提案までの経過>
 邑上前市長の時代から、議会で自治基本条例の検討が続けられ、2020年3月に条例が全会一致で採択された。この自治基本条例の19条に基づき、住民投票条例案の骨子案、素案ともに、総務委員会での行政報告、パブリックコメント募集、職員や議員からの意見聴取など行われた。
 市民からのアンケート調査も、無作為抽出という方法で2,000名に送られた。73.2%の市民が外国籍住民を投票資格に加えることに対して賛同したということは重い事実である。
 何より、10月3日投開票の武蔵野市長選挙において、松下玲子候補のチラシには「常設型住民投票制度を確立します」との文章があったが、あと2名の候補のチラシに関しては、こうした記載はなかった。
<条例案への批判に反論する>
 条例反対の意見の中で「外国人に乗っ取られる」というものがあった。しかし一体誰が乗っ取るのか。3か月間、衣食住を保障して、そして住民参加の目的で引っ越して、どこに住むのか。こうした点は12月13日の総務委員会の質疑で行政が明確に反論を述べた。また、外国籍住民と日本人の住民投票資格を定めた大阪府豊中市、神奈川県逗子市でも、外国籍住民が増えて、乗っ取られたり、市政がゆがめられたということはない。
 参政権については、衆議院の法制局の見解を自民党の長島昭久氏が引用していたが、自分の意見の補強のために法制局の見解を利用したもので、間違った態度であり、衆議院の法制局は特定の見解に対する評価を表明する立場にはないということが行政の答弁でも明確になった。
 さらに、外国籍住民の権利に関しては、1995年の最高裁の判決について質疑があったが、この判決は「地方参政権の付与が憲法上禁止されたものではない」ということを規定したものである。参政権は国会で法律によって決められる権利であり、住民投票制度は自治体で決定するという制度上の大きな違いがある
<条例審議のこれから>
 私のところにも、様々な意見がメールや電話やファクスやお手紙やはがきであった。長く地域でがんばってきた人も、武蔵野に引っ越してきて3か月たって資格を得た方も、共に排除をしない姿勢が大切だと思う。
 この点で、自由民主市民クラブの12月2日付の市政レポートでは、市民からの声として「子どもたちは大丈夫なの」とか「治安は悪化しないの」という意見があったが、そんなことはあり得ないと思っている。これでは、排外主義につながりかねない。
 住民投票制度が否決されて、現在の市議会の構成では、条例の修正が必要だが、提出時期や内容等は現時点で未定である。
 条例はどうあるべきかに関心は高まったので、私も広く広報を続けていきたい。議会の中では、条例反対の立場の会派・議員に、どこを変える必要があるのかを明確にしていただきたいと思っている。
 これで住民投票の議論が終わったわけではない。多様性を活かし開かれた社会をつくる上で、条例はどうあるべきか、草の根の活動を大切にしながら考えていきたい。