原発事故は終わっていません~強制避難と「自主」避難、避難者のこれまでとこれから~

私は、武蔵野市に避難した原発事故避難者を中心とする団体「キビタキの会」の事務局を担当し、また「避難の協同センター」の世話人も務めています。先日イベントの資料として以下の文を書きましたので、こちらにも投稿します。基本的なことから書きましたので、どうぞお読みください。

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福島原発事故による避難者は今
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1.強制避難と自主避難

2011年3・11の福島第一原発事故によって、多くの住民が住みなれた故郷を離れ、全国各地に避難を強いられました。
原発事故の避難者への支援は一様ではありません。政府の避難指示によって避難した避難者(強制避難)には、東京電力からの不動産賠償および精神的損害賠償がありますが、避難指示区域外からの避難者(自主避難者)には、災害救助法に基づく住宅の無償提供が、ほぼ唯一の支援策でした。
そもそも、政府は、2011年4月22日に、警戒区域・計画的避難区域を決定しましたが、それは20ミリシーベルトの年間積算放射線量を基準とするものでした。この基準で線引きすること自体、放射能汚染の影響への過小評価あるのでは、との批判が強くあります。
各地に避難した住民は、都営住宅・雇用促進住宅・国家公務員宿舎などの公的住宅住宅や、民間の賃貸住宅、親戚や知人宅などに住むことになりましたが、公的住宅のどこに住むかは自ら選択することはできませんでした。

2.自主避難者への住宅避難打ち切りとその後

政府と福島県は2017年3月末で12,539世帯・32,312人の区域外避難者の住宅無償提供を打ち切りました。
その後福島県は、経過措置として2年間、民間賃貸住宅避難者への家賃補助や、国家公務員宿舎居住者にセーフティネット契約による居住の継続を実施しました。しかし、こうした施策を2019年3月末で、全て終了させようとしています。国家公務員住宅に区域外から避難している130世帯に対しては「来年3月末での退去」」「退去しない場合は2倍請求」など条項が記載された使用契約書締結が強要されていて今大きな課題となっています。こうした経過措置は、住まいの安定が確保されるまで継続すべきです。
東京都など、各地の避難者を受け入れた自治体では、2018年度分から、公的住宅の避難者専用枠による募集が行われ、一定の世帯にとって住まいの確保となりました。
しかし、都営住宅入居には、入居先が避難先から離れる場合もあり、さらに収入要件・世帯要件もあります。高齢でない単身者には入居資格がないという課題は今とりわけ大きなハードルとなっています。
9月5日、東京都は、都営住宅の避難者専用枠70戸の募集などを発表しました。これも、同様の収入要件・世帯要件がありますが、一定の世帯にとって住まいの確保につながります。
#世帯要件は以下の6類型:①ひとり親世帯、②高齢者世帯、③心身障害者世帯、④多子世帯、⑤特に所得の低い一般世帯、⑥小さな子どものいる世帯

3.強制避難地域の支援縮小

一方、福島県内での強制避難地域は、どうなっているでしょうか。
内堀福島県知事は、8月27日、住民の意見を十分に聞くことなく「富岡町、浪江町、葛尾村、飯舘村の帰還困難区域の応急仮設住宅の無償提供を2020年3月末で終了」と発表しました。
同時に南相馬市、川俣町、葛尾村、飯舘村の避難指示解除区域についても、予定通り来年3月末で住宅提供を終了するとしています。しかし、昨年避難指示が解除された区域の平均居住率は未だ20%以下で、多くの世帯は避難先に居住を続けている状況です。

4.支援打ち切りの根拠と問題点

1)「原発事故子ども・被災者支援法」は2012年6月に国会で全会一致で成立しました。しかし区域外避難者の無償住宅提供打ち切りについては、国会、福島県議会の審議をおこなわず決定してきたことは大きな問題です。

2)福島県が自ら区域外避難者の支援を終了し、その決定を政府が追認する構造になっています。
福島県の支援終了理由は以下のようなものです。
①福島県では普通に人々が暮らしている。県民感情を踏まえた時に区域外避難者だけを支援する訳にはいかない。
②原発事故から7年を経過している。そろそろ自立をお願いしたい。
これらは、公平性を盾に、住民の中に新たな分断を持ち込むもので、経済的自立を期限を決めて強制することはつつしむべきです。

3)2016年10月以降、政府や福島県は、「区域外避難者の実数公表、生活実態と意向調査」を一切実施することなく、支援を先に打ち切りました。復興庁の被災者支援総合交付金を活用した、全国26ヶ所の「生活再建支援拠点」の「個別相談対応」に対応を移行させましたが、生活困窮者への現行制度の部分活用(生活保護や公営住宅の住居基準、福祉貸付金)であることから問題解決につながらない事例が多くあり、経済的な支援が必要と考えています。

5.避難者の現状

山形県が今年7月に行った調査によれば、困窮・不安の内容は、生活資金(64%)・身体の健康(49%)・住まい(40、5%)となっています。
2017年3月で住宅支援を打ち切られた避難者に対する東京都の実態調査では、収入月10万円以下の世帯が22%、月20万円以下が世帯の過半数を占めています。
新潟県精神保健福祉協会の調査では、同県内の避難者の重度ストレスが通常は5%程度ですが、24.8%に上っていることがわかりました。

住宅支援打ち切りに直面した避難者の中では、自ら命を絶つ悲劇もありました。これ以上、避難者を経済的、精神的に追い詰めることがあってはなりません。

*注)3、4.は、避難の協働センター事務局長瀬戸大作による報告をもとに書き起こしました。
なお、避難の協同センターは、原発事故による避難者を対象に、住宅問題をはじめ生活問題全般にわたる多面的な支援の仕組みをつくろうと2016年7月に設立された広域的団体です。